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この二元的改革戦略には、2つの理論的前提がある。1つは、首長−議会といった二元代表制という現行の画一的な代表システム(以下代表システムの略記)を前提としていることである。もう1つは、直接民主制の系に位置づけられる直接請求制度の再考などを含む住民参加の拡大は、代表制システムと並存させるということである、これらの2つの理論的前提自体は、今後吟味されてよいものである。しかし、今日現実化しようとしている地方分権改革の動向を考慮すれば、地方自治の二層制とともに、これら2つの理論的前提を踏まえた改革論がより現実的なものとなっているといえよう。
そこで、本章は現実の地方分権改革の動向を念頭におきつつ、意思決定の二元的改革戦略を構想する上での基本的視点を確立することを目的としている。つまり、地方議会の現状の把握とその活性化の動向、および直接民主制の契機の拡充の動向と把握とその分析とに焦点をあわせることにしたい。その際、2つの論点だけを追及することにする。1つは、地方議会の活性化にせよ、市民決定の範囲の拡大にせよ、住民参加の拡充を目指した改革論を模索することことである、そしてもう1つは、既存の地域権力構造、一般には利益誘導政治といわれるものを直視した現実的改革論を提起する必要があることの指摘である、こうした問題意識から、本章では次の課題を設定する。第1には、地方議会の現状を住民の政治参加という視点から確認する。第2には、住民参加の新しい動向を見定めつつ、今日脚光を浴びている直接請求あるいは住民投票の政治過程上の位置を確認する。そして第3には、原子力発電所建設をめぐってはじめて行われた新潟県巻町の住民投票の動向を検討素材としながら政治システムの二元的改革戦略の現実を見定める、ここでは、この住民投票は、直接民主制の契機の導入の意味だけではなく代表制システムの活性化が同時に試みられていることを明らかにする。

 

2. 地方議会の現状とその政治的機能

 

(1) はじめに−住民参加の1つのチャンネルとしての地方議会−
地方議会は、住民が政治へとかかわる1つの重要なチャンネルであることはまちがいない。しかし、地方議会は、地方分権を担う重要な制度として位置づけられてきているまさにこの時期に、危機に瀕している。地方選挙における投票率の低下や、無投票当選率・無風選挙の増大、さらには与党化率の増大。これらは、地方議会の活性化とはまったく逆の方向で推移している現象である2)。

 

 

 

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